なぜ今FP&Aが日本企業で注目されるのか|5つの背景
公開日:2026.10.23
更新日:2026.10.23
日本企業でFP&Aへの注目が高まっている理由は、ひとことで言えば、数字に基づく『事業説明』と、同じく数字に基づく『意思決定』という、一貫した定量的な対応が社内外から求められるようになったためです。
具体的には、①計画が立たない時代への突入、②資本市場からの要請、③経営のグローバル化、④既存部門の役割の限界、⑤先行企業からの波及、という5つの背景が重なっています。
「FP&Aという言葉を最近よく見かけるが、なぜ急に話題になっているのか分からない」
経理・経営企画の現場でも、そんな戸惑いは珍しくありません。
流行り言葉として消費されるのか、それとも構造的な変化なのか。背景を一つずつ紐解いていくと、この流れが一過性ではないことが見えてきます。
本記事では5つの背景を順に解説し、あわせて「なぜ日本では導入が遅れたのか」「どんな企業から広がっているのか」という疑問にも答えます。
注目の理由は5つの背景に整理できる
5つの背景は、性質ごとに「外からの圧力」「内側の事情」「変化の触媒」の3つに整理すると、相互のつながりが見えやすくなります。
①計画が立たない時代へ
第一の背景は、過去の延長線上に未来を描けなくなったことです。国内市場の成熟、人口動態の変化、為替や資源価格の振れ幅の拡大。
こうした条件のもとでは、「昨年並み+数%」という伝統的な計画の立て方が機能しません。
前提を置き直しながらシナリオを複数描き、状況に応じて素早く読み替える。そのための専門的な機能として、FP&Aが求められるようになりました。計画と予測の精度が、そのまま経営の生存力に直結する時代と言えます。
実際、中期経営計画の前提が初年度で崩れる、為替の想定レートを期中に何度も置き直す、といった経験は、多くの企業にとって思い当たる節があるはずです。
②資本市場からの要請
第二の背景は、資本市場と制度の変化です。2014年8月に経済産業省のプロジェクト最終報告書として公表された、いわゆる伊藤レポートは、資本コストを意識した経営の必要性を打ち出し、ROE(自己資本利益率)8%という具体的な水準に言及して経済界に大きな影響を与えました。
続いて2015年6月には、コーポレートガバナンス・コード(上場企業の統治指針)の適用が始まり、資本効率や経営計画について投資家へ説明する姿勢が上場企業に求められるようになりました。
どの事業で、どれだけ資本を使い、どれだけ稼ぐのかを数字で説明する責任が明確になったことで、その裏側を支える機能、すなわちFP&Aの必要性が高まったのです。
③経営のグローバル化
第三の背景は、経営の国境が消えたことです。米国など海外に目を向けると、FP&AはCFO(最高財務責任者)の組織を構成する標準的な職種として定着しています。
日本企業が海外子会社を束ねる場面では現地のFP&A人材と協働することになり、逆に外資系企業の日本法人では本社からFP&Aの仕組みがそのまま持ち込まれます。外資系で経験を積んだ人材が日本企業へ移る流れも手伝って、「海外では当たり前の機能が自社にない」という気づきが広がりました。
④既存部門の役割の限界
第四の背景は、社内の分業構造の隙間です。多くの日本企業では、経理が決算と制度対応を、経営企画が戦略と中期経営計画を担うという分業が長く続いてきました。
この体制で空白になりがちなのが、日々の事業の意思決定に、数字の裏付けをもって伴走する人材です。
決算は正確で、戦略資料も立派なのに、「この案件を受けるべきか」という現場の問いに数字で答える人がいない。この隙間を埋めるビジネスパートナー型の人材への需要が、FP&Aという名前とともに顕在化しました。
⑤先行企業からの波及
第五の背景は、具体的な事例の登場です。例えば富士通が2023年にFP&A組織を発足させた取り組みは、同社の公表資料や経済メディアの報道を通じて広く紹介されました(2026年10月時点の公開情報)。
日本を代表する大企業の実例が可視化されたことで、「自社でも検討しよう」という動きが追随し、求人市場でもFP&A職を掲げる企業が目に見えて増えています。先行事例は、概念の輸入から実装の段階へとフェーズが移った合図でもあります。
ここまでの流れを時系列で整理すると、次のようになります。
| 日本でFP&Aへの注目が高まるまでの流れ | |
| 時期 | 出来事 |
| 2014年8月 | 伊藤レポート公表 (資本コスト経営・ROE8%水準に言及) |
| 2015年6月 | コーポレートガバナンス・コード適用開始 (資本効率の説明責任が明確化) |
| 2020年代 | 大手企業でFP&A組織の設置が相次ぐ (例:富士通が2023年に発足を公表) |
| 現在 | 求人・組織づくりが中堅・成長企業へ波及 |
*スワイプすることで表の全てが出ます。
ポイント
注目の背景は「①計画が立たない時代②資本市場の要請③グローバル化④既存部門の限界⑤先行事例の波及」の5つ。
外圧(制度・市場)と内圧(計画・人材の課題)が同時に働いており、一過性の流行ではなく構造的な変化と捉えられる。
日本企業はどう動き始めればよいか
背景が構造的である以上、問われるのは「乗るかどうか」ではなく「どう乗るか」です。
最初の一歩は大掛かりな組織新設ではありません。自社に照らして、5つの背景のうちどれが最も強い圧力になっているかを特定し、そこに対応する機能から整えるのが現実的です。
資本市場対応が急所なら業績の可視化と説明力から、現場の意思決定が急所なら事業に伴走する体制から、という順番です。
FP&Aという機能の全体像や導入の進め方は、『FP&Aとは?』で体系的に解説しています。
なお、これから立ち上げる企業には追い風もあります。AIをはじめとするテクノロジーの進化で、少人数でも経営管理の仕組みを回しやすくなっているためです。
後発であることは、最初から新しい形で設計できるという利点にもなります。
AIを前提にした経営管理の姿は『AI FP&Aとは』で詳しく解説しています。
ポイント
最初の一歩は組織の新設ではなく、5つの背景のうち自社に最も強く働いている圧力を特定すること。
その圧力に対応する機能から小さく整え始めれば、後発ならではの新しい設計も選べる。
よくある質問
日本企業とFP&Aをめぐり想定される主な疑問について、ここまで解説した背景を踏まえてお答えします。
Q1. なぜ日本企業にはFP&Aが根付いてこなかったのですか?
A. いくつかの構造要因が重なった結果と考えられます。銀行借入中心の資金調達では資本効率を投資家へ説明する圧力が弱かったこと、経理と経営企画の分業が固定化し数字で事業に伴走する職種が育ちにくかったこと、そして売上規模の成長を優先する時代が長く続いたことです。これらの前提が2010年代半ば以降の制度変化で崩れ、機能の空白が一気に意識されるようになりました。
Q2. 日本企業のFP&Aと外資系のFP&Aは何が違いますか?
A. 外資系ではFP&Aが標準職種として確立しており、CFO組織の中核として事業部門ごとに配置され、キャリアパスも明確です。日本企業では、同じ働きが経営企画・経理・事業管理などに分散し、名前のないまま担われてきました。機能そのものが無かったというより、職種として束ねられていなかった、という違いが実態に近いでしょう。
Q3. FP&Aの導入はどんな企業から広がっていますか?
A. 先行したのは、グローバルに事業を展開する大手企業と、外資系の日本法人です。近年は、投資家への説明責任が重い上場企業や、急成長中のスタートアップ・中堅企業にも広がっています。富士通のように導入の取り組みを公表する大手が現れたことで(2023年・公開情報)、検討の裾野はさらに広がりました。
Q4. 中小企業にもFP&Aの波は来ますか?
A. 来つつあると考えられます。少人数の兼務から始められること、クラウドやAIの進化で数字の収集・可視化のハードルが下がったことで、専任組織を持てない規模の会社でも機能の導入が現実的になってきました。規模に応じた進め方は、中小企業向けの導入記事群で詳しく扱います。
Q5. FP&Aの広がりはいつから始まりましたか?
A. 米国など海外では数十年来の標準的な機能ですが、日本で広く意識され始めた転機は、2014年8月の伊藤レポート公表と2015年6月のコーポレートガバナンス・コード適用です。この制度変化で土壌ができ、2020年代に入って大手企業の組織設置が相次いだことで、言葉としての認知も一気に進みました。
まとめ|5つの背景は構造変化
日本企業でFP&Aが注目される理由を振り返ります。
- 背景①:市場の成熟と変動で、過去の延長線上に計画を描けなくなった
- 背景②:伊藤レポート(2014年8月)とガバナンス・コード(2015年6月適用)により、資本効率を数字で説明する責任が明確になった
- 背景③:グローバル経営と人材の還流で、海外標準の機能が日本にも流入した
- 背景④:経理と経営企画の分業の隙間で、事業に数字で伴走する人材が不在だった
- 背景⑤:富士通など大手の導入事例が公表され、検討の裾野が広がった
- 外圧と内圧が同時に働く構造変化であり、問われるのは「どう乗るか」の設計
5つの背景はどれも短期では消えない変化であり、FP&Aへの注目は今後も続くと見られます。
本記事をお届けした株式会社FP&A Japanでは、日本企業の経営管理の現場に携わる立場から、今後もこの分野の動きを読み解く情報を発信していきます。
この記事の監修者
監修(FP&A実務・経営管理の設計)
小池 武史(こいけ たけし)
FP&A Professional/株式会社FP&A JAPAN 代表取締役社長 CEO
株式会社電通で営業・事業企画・経営企画を歴任し、電通ジャパンネットワークではFP&A部門の立ち上げを担当。部門リーダーとしてCOO・CFOの直下で経営推進を支えてきました。事業企画からFP&A、中期経営計画、税務まで実務に精通し、2026年1月に株式会社FP&A JAPANを設立、代表取締役社長に就任。
共同監修(会計・ファイナンス) 榎並 晃司|公認会計士/株式会社FP&A JAPAN 取締役副社長 CFO
監査法人と事業会社の両方で、管理会計・決算・M&Aに幅広く携わってきました。
監修者プロフィールを見る
